第29回東北作業療法学会 学会長松木信

1990年(平成2年)9月29日、岩手県作業療法士会が主管となり第1回「東北作業療法学会」が、岩手県立中央病院講堂で東北各県の作業療法士332名の参加で開催されました。各県作業療法士会の主管持ち回りで開催されてきた東北作業療法学会は、29年の歴史を重ね、その規模も内容も深化発展しております。
東北の作業療法とは、この29年間東北の各県作業療法士会と、そこに結集する作業療法士が創りあげてきた歴史と文化そのものであり、私たちの通ってきた軌跡そのものが東北の作業療法を作り上げてきたことだと確信しています。それは日々繰り返される日常の中で、患者さんや利用者さんとたたかいながら、悩み苦しんできた評価と治療の過程であり、先人達が取り組んできた様々な作業療法の積み重ねが今の作業療法の基礎となっていることを、私たちは常に考えながら前に進んでいかなければなりません。その深化の集大成が毎年開催される東北作業療法学会であると思います。
前回の秋田学会より引き続き、最先端の作業療法の研究の成果を持ち寄り、歴史の1ページにあなたの名前を残してください。私たち実行委員会は、多くの東北各県作業療法士のみなさんより演題を発表していただき、自ら作り上げる東北作業療法学会に参加されることを期待いたします。

さて、今回の東北作業療法学会のテーマは、「地域共生社会に向けて」~みんなで創ろう、支え合う地域~ 『あい(Ⅰ・合い・愛)は地域をすくう!』です。
地域包括ケアシステムが少子高齢化社会を支えていくための戦術として、日本の各地で繰り広げられていますが、第二ステージとしては、高齢者だけでなく、障がい者も、障がい児も、精神障がい者も、認知症者も、ともに主体と自覚を持ってお互いに助け合いながら暮らせる街づくりをめざしていくことを命題としており、そのためには行政と地域連携、医療と介護の連携、専門職間の連携が必要不可欠であります。
是非今回の学会では、私たち作業療法士が、第二ステージの中でどのような役割を持って進んでいかなければならないのか、みんなで討論しながら作業療法のParadigm Shiftの一端となることを祈っております。東北各県作業療法士会の多くの皆さんに参加していただき、作業療法の新たなステージを作り上げていくために、あなたのお力をお貸しください。皆さんのご参加を心から歓迎いたします。

第29回東北作業療法学会
学会長 松木信

人々の健康と幸福を促進するために
-第 29 回東北作業療法学会の開催に寄せて-

第29回目の東北作業療法学会の開催にあたり心からお祝いを申し上げます。また、松木信学会長はじめこれまで東北の作業療法学会を盛り立ててこられた歴代大会長ならびに会員の皆様に心から敬意を表します。本学会では「地域共生社会に向けて」~みんなで創ろう、支え合う地域~『あい(I・合い・愛)は地域をすくう!』をテーマに東北の直面している幾つかの重要な課題が討議されると思います。それらを通して、東北に暮らす方々の健康と幸福が促進されることを祈念しております。

既にご承知のように2018 年 5 月の定時社員総会において、協会としての 「作業療法の定義」を 33 年ぶりに改定し、作業療法の目指すものを「健康と幸福」の促進としました。この「健康と幸福」について考えるためにある会員からの手紙を紹介します。その会員は、永年作業療法士として臨床業務に従事し、 10 年ほど前に体調を崩し勤務もままならない時期を経て退職されましたが、最近は調理や掃除、買い物などの普通の生活を送ることができるようになり、「作業」のある生活の大切さを再認識されたそうです。そして、協会の定義について「健康と 幸福、 なんと素敵な言葉でしょう、大変勇気づけられました」と結んでおられまし た。改めて、「人は作業を行うことで健康になれる」とはどういうことか、その意味の奥深さを再認識させるお手紙でした。作業のない、またはそれらが難しい方々のために地域で作業を行える環境や支援がある。その一翼を作業療法士は担わなければなりません。共に取り組んで参りましょう。

地域共生社会の実現のためには、地域包括ケアシステムの構築が必要なことは言うまでもありません。その為には、いかに多く、いかに質の高い人材と技術を提供することが重要であると思っております。東北各県の士会でもすでに多くの研修会や OJT による人材育成が 進んでいることと存じますが、病期や施設の特性を踏まえつつも、全ての作業療法士が共生社会の実現に向け、一人一人の利用者の実践を通して、さらに地域で豊かに過ごす人々を増やし、地域を元気にする活動に取り組んで参りましょう。

17年振りに理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則およびガイドラインが改正されましたが、改定の主眼は、地域包括ケアに資する作業療法士の育成にありました。まさに本学会のテーマと一致するところです。協会では、「作業療法教育ガイドライン」、「作業療法臨床実習指針」の改定および臨床教育指導者の講習会 等の準備を進めていますが、臨床実習指導を担当される全ての方に研修会の受講が義務付けられましたので、各県士会で開催される研修会への受講をお願い致します。

会員一人一人は国民の財産であり宝だと思っています。その宝が光り輝けば日本の未来も明いと思います。それほどの価値が一人一人の作業療法士にはあります。それを自覚して国民に信頼される作業療法の実践に取り組んで参りましょう。最後に、東北の作業療法士が一堂に会し日頃の学術研究や社会貢献活動等を報告・討議される貴学会が、東北の方々の健康と幸福を保障し、作業療法の更なる 発展の礎となりますことを心より祈念しております。

一般社団法人 日本 作業療法士協会
会長 中村 春基